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福岡高等裁判所 昭和31年(ネ)211号 判決 1965年4月07日

理由

一  (省略)

二  控訴人は第三の家屋(注、原判決末尾目録第三の家屋)は、被控訴人儀三の所有であつて登記名義のみを巌名義にしたという同被控訴人の主張を自白したのを当審昭和三八年二月八日の口頭弁論にいたり、同家屋は儀三が巌に信託したもので、同家屋の所有権は内外とも巌にあると主張し、被控訴人らの事実らんに摘示のとおりになした自白を撤回するのであるが儀三が第三の家屋を巌に信託したというには、儀三が同家屋の所有権の登記名義人となつた巌に同家屋の所有権を移転し、巌をして一定の目的に従い同家屋の管理または処分をなさせる行為を必要とする。したがつて、たとえば儀三が寄託の目的で第三の家屋を巌に移転し儀三の請求次第いつでもこれを返還し、儀三またはその指定する者の名義に所有権移転登記をする合意がある場合などにおいては信託行為があるといえるけれども、儀三が巌不知の間ないし同人との合意やその同意の上、たんに所有権の登記名義のみを巌名義にした場合は、虚偽の登記、通謀虚偽表示に基づく登記であることはいうまでもないところ、本件において前示信託行為がなされたという明確な証拠はなく、控訴人が援用する原審被控訴本人儀三尋問の結果によれば、第三の家屋を巌名義にしたのは、被控訴会社の税金の複雑さをさけるために、登記名義のみを同人名義にしたに過ぎないことが認められる。もつとも(証拠)によれば、第三の家屋は昭和二五年二月二八日合瀬巌名義に所有権保存登記がなされた後、根抵当権者株式会社十八銀行、長崎無尽株式会社のため、根抵当権設定登記がなされていることが認められるけれども、それは(証拠)によれば、前者の根抵当権設定の登記は被控訴会社の代表者である儀三、後者は儀三個人の同意の上なされたことが明らかであるから、右各根抵当権設定登記の存することは第三の家屋が巌の所有であるという証拠となるものではない。よつて結局控訴人の前示自白が事実に反するという証拠のないのはもちろん、同自白が錯誤に基づくという点についてはなんらの証拠がないので、前示自白の撤回は許されない。

三  (省略)

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